脳死宣告

息子が受傷して4ヶ月です。

日本はすっかり秋になりました。

毎日が一瞬で過ぎていきます。

息子の回復にできるだけ良いことをと情報収集し、リハビリに励み、日々を駆け抜けている感じがします。

いつかこの生活が落ち着いて、日常取り戻し、今の幸運を忘れてしまう日が来るかもしれません。

自分の不幸を嘆く日が来るかもしれません。

その時のために、書いておこうと思います。

 

 

息子が脳死宣告をされたのは6月29日、受傷してから9日目のことでした。

こんなに早く宣告をされるとは夢にも思っておらず(夫はミーティングがあると聞かされた時点で覚悟していたそうです)、今後の話をするから話し合う場を設けたいと言われたわたしは、一字一句逃してはいけないと、iPhoneの録音機能をオンにしていました。

まだ、聞き直すこともできず、消すこともできていません。

録音は、全部で26分37秒。

あの時の気持ちを思い出しました。

 

ミーティングルームに入ると、先生たちが6〜7人並び、とても重苦しい雰囲気。

前置きは短く、ICUの担当医が、

We believe he is brain dead.

と言ったのを覚えています。

そして、脳神経科の医師が、その判断にいたるまでの検査結果など、あらゆる可能性を探った経緯を説明して、

99%、息子さんは脳死です

と言ったのです。

そして、脳死判定テストの日にちは私たちが決められること、テストは2回行われ間違いがないよう確認されること、2回目のテストが終わった時点が法的な死亡時刻であること、納得するまで待つけれどそれまでに息子の命が先に尽きるかもしれないこと、臓器提供という道があることを説明されました。

私たちは意外と冷静で、本当にもう手立てはないのか、可能性は1%もないのかと聞き、残念ながらありません、という答えをもらったように思います。

その場に並んだ他の科の先生たちも、もうこれ以上治療の余地はありません、という答えでした。

それ以上言葉もなく、ミーティングは終了しました。

 

 

先生たちが部屋を出て行った後、夫婦で顔を見合わせて泣きましたが、頭は放心状態で何を考えていたか、あまり覚えていません。

 

 

正直、それまでの経過でかなり厳しいことは理解していました。

それまでの1週間ちょっと、ベッド脇から離れずに息子の様子を見ていたので、その可能性を考えなかったわけではありませんでした。

血圧や心拍数は恐ろしいほど乱高下し、ICPという頭蓋内圧の値は平均値をはるかに超える高い数字が長期間続いていました。

痰が鼻や口につまらないように吸引する時や体の清拭の度に、体が悲鳴を上げているかのように、ICPが急上昇しました。

頭蓋骨を外して脳圧を逃しているはずの頭は膨張し、体位変換も数センチずつしかできないため、床ずれで後頭部に血が滲んでいました。

瞳孔はほぼ開ききって、光への反応はなく、その他の生体反応も全くなし。

丸一日モニターしていた脳波も振れなかったのです。

先生たちも毎日何度も様子を見にきては、体の反応をテストしていて、その度に何か変化があるか聞いたものの、答えはいつも同じ。

状態に変化はありません。

 

触る隙間がないほどに点滴や管で覆われた体を指先で撫でながら、なんとか目覚めてほしいと耳元で声をかけ続けていました。

でも、身体中パンパンに腫れ上がって、人相もわからなくなってしまった息子。

その姿がかわいそうで、かわいそうで、胸が潰れそうでした。

早くこの痛みや苦しみを取り去ってあげたい。

だから、脳死を宣告され、恐れていたことが現実になってしまって、とめどなく涙は溢れましたが、でも、この苦しみから息子は解放されるんだとも思ったのです。

 

 

つらかったのは、脳死と宣告されて、住んでいたコンドミニアムに初めてシャワーを浴びに帰ったときでした。

息子が元気に部屋で遊ぶ姿が、まるで幻想のように浮かびました。

クローゼットの扉を何度も開け閉めしながらいたずらっ子のように笑う姿が浮かんで、ヨチヨチと覚えたてのあんよでリビングを歩き回る姿が浮かんで、テラスから見える電車を指差して熱心に話しかけてくる姿が浮かんで、どうしようもなく悲しい気持ちになりました。

廊下で、夫が堰を切ったように泣き始めました。

家中に響き渡る大声で、床を転げ回るように泣いていました。

わたしたちは悲しくて、悲しくて、悲しくて、息子がこの世からいなくなることが耐えられず。

溺れそうになっていました。

 

 

まだ息子は笑わないけれど、楽しそうな表情を見せてくれることがあります。

ママとはわからないかもしれないけれど、抱っこをすれば手でギュッと掴んでくれるようになりました。

命は、なんて尊いんだろうと思います。

あの時、もう生きていけないなと一瞬でも思ったこと。

反省しています。

誰しもが誰かの息子や娘であり、誰かの大切な存在であり、ただ生きていかなければならないことを、今では知っているからです。

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